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カルシウムにお願い!



  保健室の床を安っぽい箒で掃く。科学室とか生物室とは違った薬品の匂いがする。いつまでも慣れそうにないこの匂いから逃れるように窓を開け、酸素を体じゅうに取り込んだ。 目を閉じて。またゆっくりと開ける。ふわふわした雲が浮かぶ青い空を目に入る。空が、鮮やかな色が眩しい。大丈夫、痛くはない。
  いつまでも見ていられそうだけど、首が長くなりそうで、目線を少し下げた。

あ、グランドにて友達発見。野球をしている彼らに向かって手を振れば、気づいてくれた。なんとなくかまって欲しくて、ポケットからカラーボールを出して宙に投げる。昨日テレビでみた野球選手みたいにバットの代わりに箒をかまえ、ボールに向かって思いっきり振る。タロー選手ホームラン。
  のつもりで打ったボールは見事に窓枠に当たって、跳ね返り、後ろにいたメガネの少年の頭に見事ヒットした。ああ、外野に当たってしまった。


  「ごめーん、ナカジ」
  ちょっとやばいかなとか思いつつも、笑顔で少年に近寄った。彼の顔が床に落ちていた。

  「…ナカジの顔が…顔が…取れた!」   床に落ちていたメガネをそっと拾い上げ、叫ぶ。ごめん、ナカジ。今まで、メガネなんか掛けて、根暗そうな奴だと思ってて。本当にごめん。まさか顔がとれて死んじゃうんなんて。
  「死んじゃ嫌だよ…ナカジ」
メガネに俺の涙が落ちた瞬間、奇跡が起きた。


  「誰が死ぬって?」
  根暗なアイツが帰ってきたのだ。
  「ナカジが生きてる!」
  「メガネ取れたぐらいで死ぬわけがないだろ」
  彼の顔をじっと見る。ああ、よくよく見れば顔があった。


   「なんか、ナカジの素顔って普通だよね…」
   言い終えた瞬間、左頬にビンタをくらった。頬の一点に熱がこもったように痛い。やばい去年死んだおじいちゃんが見える。

  「そんなに見ないでくれ!俺の素顔はみんなに夢と希望を与えるんだ!!」
  本格的に危ない、幻聴まで聞こえる。さようならみんな。今までありがとう。


  「大丈夫か?」
  声がして目を開けると、ナカジと目が合った。メガネ着用済みのその顔が少し、ほんの少し眉間にしわ寄せていて、それがなんだかおかしかった。床から立ち上がり、笑ってみせる。

  「大丈夫!心配してくれてありがとね」
  「べ、別に心配なんかしてないから、一人だと掃除終わらないし」
  そう言ってナカジは、また箒を手にして床を掃きはじめる。
 
掃除を再開し五分また口を開く。どうやらタローという生き物は喋らないと生きていけないらしい。
  「そういえば、保健の先生って先週、産休に入ったよね?」
  「……うん」
  「その代理の先生ってどんなんなのかな?」
  「……さあ」

  会話が続かない。どうやらナカジは俺を殺す気らしい。溜息を深く、吐く。疲れた。   ふとメガネが床を掃く手を止めた。


  「あ、」
  「何?」
  「…保健の先生、危ないって。」

先生が危ないって、こっちのメガネの方が危ないのではだろうか。頭の中が。
  「どういうこと?」
  「…ニッキーが言ってた」
  ニッキー、彼は存在が危険人物だ。危ない奴が危ないっていう人物はそうとうやばい。


  「大変だよ!はやく逃げないと!ここはその危険人物のアジトだよ」
  「…逃げた後、もっと危険だろ。」
  「じゃあ、はやく掃除終わらせて逃げ…」

  よう。そう続けようとした瞬間、後ろから悪魔の声がした。



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続きます。