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トレルチ


  五時の鐘が鳴って、砂の山が崩された。
  誰かが遊んだ後の砂場。薄暗くなった公園で一番目立たなくなったその存在を憐れんだ。

  崩された山を指先で撫でた。スカートにかかった、しめった砂をつまんで崩れた山の上で落とす。家庭科の調理実習を思い出す。煮詰まった鍋の中に塩をつまんで入れる。
  「沸騰してる・・・?」   なんとなく呟いて、虚しく響いてどこかに消えた。砂が沸騰するわけないのにね。現実に戻って、冷めた風を感じて立ち上がる。砂がついたスカートをはたいて顔を上げる。



  時計台を見れば5時15分。いつも15分遅れている時計。
  この時間が一番、好き。
  そして、ここで振り返れば目が合う。



  「何してた?」
  ギターを背負って、いつも変わらない姿の少年。
  「砂を遊具にしてたの」
  「意味分かんないこと言うなよ」

  その言葉を無視して、私はここで笑うって聞いた。


  「ねえ、今日ここで私とナカジが出会う確率って、この砂に例えるとどれくらいだと思う?」
  少年は少し考えてから、しゃがんで砂をつまんだ。そしてもう片方の手の小指に落とす。小指に乗ったほんの少しの砂。
  「これだけ?」
  聞けば彼は無言のまま頷いて、砂で汚れた手をマフラーで拭いた。

  「帰る」
  そいって歩きはじめた彼の後ろをついていく。


  こうして一緒に帰る確率なんて本当はもっと高いのだ。彼はわかっていても、否定して、理解していても、拒絶して。必然より運命を好いているのだ。
  ああ、哲学者よ。

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普通のサユリちゃんも好きだけど、電波なサユリちゃんが好きです。
久し振りにNL書いた。